前置き
マラウイはアフリカの東部に位置する内陸国。
小さな国で、国土の三割を巨大なマラウイ湖が占める、「アフリカの温かい心 warm heart of Africa」とも呼ばれる。
そんな国に去年大学のプロジェクトで六週間滞在。そこで会った人たちに惹かれ、今回は自分一人で、教育プロジェクトを去年知り合ったマラウイ人の大学生と進めるために帰ってきた!
マラウイのコミュニティーに根付くボランティア活動
マラウイ:地域の24時間無償図書館を立ち上げたジェームスの図書館に今日も立ち寄る。室内に入ってもとても静か。誰もいないかと思い、中を覗くとそこには何人もの高校生が、教科書とノートを広げて狭い室内を埋めていた。向かいの部屋を見ても、何人もの高校生がそこにいる。とても静か、話し声もしない。皆とても真剣に机に向かっている。奥の部屋が事務所となっており、扉を開けるとジェームスの同僚がそこに。
たった小学校から徒歩十分の距離。ジェームスがそこに誰でも立ち寄れる図書館を作ったのは2011年の事。すでにもう何年も経つ。勉強をしに、多くの学生がふらりと訪れる。でも、そこは図書館だけではない。子供の駆け込み寺でもあるのだ。
ジェームスが話す。
少し前、女の子が帰りが遅い義理母を待ちかねて、シマ(マラウイの主食)を持って、友人の家に行って食べた。母親が帰ってきて、シマがなくなっているのを知り、女の子が原因だと知るとその子を家から追い出した。行き場を無くした女の子は、村長に助けを求めに行ったが、村長からセクシャルハラスメントを受けそうになり、この図書館に逃げ込んだ。
この件は、この団体だけで処理できる範囲ではないため、通報をしたという。でも、こうして助けを求める子供たちの居場所とこの図書館はなっているのだ。福祉課と時に手を組みながら、子供たちの一番近い存在であり続ける。
そんな場所がもう一つある。
ジューディスファンデーション
ジェームスが図書館で出会った様々な子供たちの話をしながら、実はもう一つこうしたコミュニティーの図書館があるから、と案内してくれる手配をしてくれた。
そこが、ジューディスファンデーション。
中に入ると、大人用の本が目立つ。
事務所は、ジェームスのよりもきれいで、広い。その事務長の人が迎えてくれる。ジェームスが、「この子に、今団体が直面している課題や、活動の事を教えてくれないか」と事務長に訪ねてくれ、事務長が活動を教えてくれる。
現在図書館を七つの村に開設し、それらを地域のボランティアが運営している。しかし、そのうちいくつかは、財政的な困難や、ボランティアのモチベーションを高めることができず、上手く運営できていないという。なんでボランティアがそこに一日中いる必要があるのか、ボランティア自身がモチベーションを持ってしないと運営ができないが、金銭的に限られているから、お金を渡すことはできない。ボランティアは記録をし、定期的に本部がモニタリングしないと行けないけれど、今はそういっていない。
後は、どんな本をここに備えるかも課題だね、と事務長が続ける。本の表紙がボロボロなのもあるし、本をアップデートできていないから、参考にするのも難しい。後は、もう少しスペースを大きくしたい。今は10~20人毎日来ているけれどニーズは大きい。
そしてここは場所を借りているだけあって、急な大家の変更等に付き合わないと行けないのが大変なんだ。建物をきれいにしたら、ここは自分たちで住むからと言われたから、もうそろそろこの場所を手放さないといけない。
しょうがないというように、頭を振りながら事務長が続ける。
だから、とジェームスに向き直って、事務長が「彼はすごいと思うんだ」という。自分の場所が小さくても確かにあると、少しずつ大きくできるからね、と続ける。ジェームスの場所は小さいけれど、確かにジェームスが所有している。
そして、今のデジタルの時代に、貧困の子供たちはパソコンに全く触れる機会がなく、大学に入って突如パソコンが当たり前のスキルとして求められるから、その子たちは大変なんだと話す。ジェームスも前に、娘が数少ない国公立の大学に受かったがパソコンがないと母親が泣いて事務局にやってきたことがあると話していたことを思い出す。
本も大事だけれど、パソコンがあればな、と事務長が私にいう。
室内を案内しながら、一番奥のミシンがある小さな部屋に入る。その壁には起業のコツなどが手書きで書いてある白い模造紙が貼られている。
「ギャングの話は聞いたか?」
聞かれて、先生たちが高学年の子供たちがギャングに誘われて、非行に走ると話していたことを思い出す。だからうなずく。
事務長は、国からの要請で、ギャングの子供たちの研究をし、そこで3000人ほどの子供たちがその犠牲になっていることを知る。ギャングはほとんどが家庭環境と関係していて、話を聞くと、「他に何もすることがなかった」と話す子も多い。今、その子たち縫物や木工の訓練をし、物を作る機会を与えるプログラムをそこで実行しているのだという。
今では200人程の子供たちがきており、彼らに新しいものを探索する機会と雇用を与えている。でも、たとえミシンを教えてとしても、ミシンを買い与えることはとてもできない。だけれど、こうして訓練を受けた若者が、自分の地元に戻ったとき、変化を地元で起こす人になってほしい。そう事務長は語る。
こうした訓練以外に、奨学金を毎年約200人の子供たちに支給している。それは、マラウイの小学校は無料だが、雑費がいくらかかかり、それがドロップアウトに繋がっているからだ。
「僕たちは、この活動を情熱でしているんだ。」国際組織は上からのご意向を聞かないと行けなかったりするけれど、問題は急遽訪れ、急遽対処しなければならない。でも僕たちのこうした活動を持続的にするのが難しいポイントなんだと私に真剣に説明してくれる。
ここは、訓練の中で作った商品を売ることで、その売り上げを活動に当てている。持続的に経営することは難しい。そう語る事務長でも、この組織が誕生してからすでに十数年活動を続けている。
こうしたコミュニティーに根ざした活動が、地域の一番弱い立場にある子供たちを支えている。その活動に感動しながら、考える。私たちがすべきことは彼らの活動を支える事なのかもしれないと。もともとこうした活動がないから、私たちがすればいいと思っていたけれど、こんなに情熱的な人たちがいて、コミュニティーの問題は彼らが一番わかっている。ならば、それを支え、協力の輪を広げるのが私たちの役割なのだろうか。まだ、答えは出ない。
小学校に再び戻る。
今日は、小学校で私たちの活動内容を先生たちと話し、また公邸に集められた生徒たちに「来てね!!」と話す。わたしが話した後、ジェームスが続けて子供たちに、「卒業生が今度くるから来てね、ランチもあるよ」と話すと歓声が上がり、子供たちが拍手する。でも同時に、彼自身が生まれ育ったこの地域で勉強をし続けた話を子供たちに現地の言葉を使って話すと、小学生たちはみんな真剣にジェームスを見つめる。マラウイは可能性に満ち溢れてると私はわたしと話すときと打って変わって表情をクルクル変えながら、子供たちの注意を全身に集めて話すジェームスの横顔と、真剣に見つめる子供たちの顔を心に収めながら思う。
一年ぶりに再会、夫妻の家で夜三時間教育を語る
私が迷っている時、どこに自分が向かっているかわからなくなって、でも迷っている事さえ気づいていない時、真剣に話を聞いてくれて、私が自分自身納得いっていない所を突き詰めて考えて、可能性を広げてくれる人たちがいる。
その人たちがこの去年出会ったご夫妻。2人とも病院に勤めており、旦那さんの方は、精神科医としていろんな若者や、親をカウンセリングしており、奥さんはワクチンのプログラムも行う激務をこなす。今日は仕事が忙しい中、仕事が終わった後、私を寮まで会いに来てくれたのだ。実は、この夫妻は私が去年マラウイ一緒に行った友人の研究を手伝った友人の恩師なのだが、友人があらかじめ私がプロジェクトを行うためにマラウイにもう一度来たと彼に伝えてくれていたそう。そして、二人ともならば力になろうと、私に連絡してくれたのだ。
日も暮れたころ、二人が寮に来た。会って、「久しぶり!」とあいさつする。奥さんの方がぎゅっと私を抱きしめてくれる。二人とも、これ以上ないほどの優しい笑顔の持ち主。外で話すのはなんだからと、二人が家に連れて行ってくれることに。車に乗り込むなり、私に「時間が取れなくてごめんね。僕たちは君のファミリーだから、僕たちが忙しそうでもなんでも言ってね!君の方から連絡がなかったら僕たちが連絡しちゃうから!」と、二人がまた最高の笑顔で笑う。私もつられて笑ってしまう。普段人見知りで、人にあまり自分を見せない友人もなぜこの夫妻が大好きなのかわかるような気がする。
家に着くなり、「君がプロジェクトをしていると聞いてるんだけど、その話を聞いてもいい?」と聞いてくれた。「本当にいいの?アドバイスが欲しくて!!」と、私は今までのこの一年間どうやって教育プロジェクトを始めようか、どうやって準備しているか、これからどうするのか一連を話すと、旦那さんの方は、ノートを持ち出し、私が話すことをうんうんと聞きながらメモを取る。
話し終えると、つまり、れながアプローチしたいのは退学率なんだね?と聞く。うん、と頷くと、これが先生たちを元に知った原因なんだねと確認する。また頷くと、「それはいい切り口だと思う。でも、退学率はこの学校はいくら?」と聞く。私が気まずそうに「退学率は1%とかだと思うんだ、だから実はこの学校はその退学率の問題はあんまりなくて困っていたんだ」と正直に一番の痛いところを話す。すると、私が思っていなかった、今までと全く真逆な視点を私にくれる。
「この学校をロールモデルにしたらいいんじゃない?」
続けて、そもそもなんでこの学校にしたの?と聞かれる。たまたま唯一コネクションがあった学校だから、と話す。すると、うーんこの学校はかなりよくやってるし、市内だけど、五キロ離れたら状況は全く違うよと奥さんが話してくれる。
「どうしよう!退学率を下げるのを目標としてたんだけど、他の学校にはコネクションがないし」と私が困り顔なのを見て二人が、「学校なんて私たちが繋げてあげられるから、とにかく今考えているこの学校の5年間の退学率の変化をまず見に行くといい。この5年間の変化を見て、もしも本当にその学校がとても優秀な学校ならば、なんでそんないい数字なのか説明して、この学校をロールモデルとしたらいいんじゃない?」と話す。
「とにかく、今しているプロジェクトはとてもいいと思うから、予定している5回のワークショップ中、2回を今の学校で行って、あと3回を別の学校で行ったらいいじゃない?」
こんな風に意見をくれる。私は必死にメモ!!
「この研究はいつまでのもの?」
と続けて聞かれる。「三年間!」何も考えず口が答えていた。「ほかの院生は研究をしているけれど、私のこのプロジェクトは論文を書く研究というより、実はただの興味でプロジェクトを始めたんだ、だから出版することはないと思う」、と正直に少し申し訳なく話す。
すると予想だになく、旦那さんの方が身を乗り出して、「こんな高い飛行機代を払ってもマラウイに来てこのプロジェクトをするのは、それは君のパッションだからなんだよ!それは素晴らしいことなんだよ!」と私に話す。
奥さんも続けて、「don’t underestimate (あまり低く自分を見積もらないで)」と私の隣でいう。
もともと興味でやっていた事だし、この退学率の問題を真剣に見ていなかった事を自分でも薄々感じていたから、大したプロジェクトになると本心のどこかで信じ切れていなかった。でも2人が、「これはとても大きいプロジェクトだよ!」と何回も私に伝えてくれる。「この結果を発表したら、助かる人がいるよ。出版最後にしようよ」と話してくれる。
自分が出版なんて考えた事は全くなかったし、こんな大学生のプロジェクトを本気で考えてくれると思っていなかった。自分でも、どこか大学生のプロジェクトの枠に当てはまる形でいい、そう思っていた。でも、こうして伝えてくれる人がいて、信じてくれる人がいると、退学率の問題を本当に解決できるかもしれないと自分でも信じられるようになる。信じると、じゃこの問題を解決するには何をしらないといけないのか、もっと真剣に考える。霧が少し晴れて、自分の考えに方向性が与えられたよう。
校長にまず連絡し、数字を聞こう。このままうやむやにしてはならない。誰かの後押しが大きくて泣けてくる。本当にマラウイでは人に助けてもらってばかり。ああ、本当に本当に、彼らが心に描く、子どもたちが守られ、勉強できる未来を作り上げる力に私もどうにかなりたい。